ジョー・カルザギ観戦記
ケスラーとカルザギが激突する!欧州の両雄が決するのだ!
カーディフの街は漆黒の闇につつまれている。背後では11月だというのに花火が上がっている。微かに足元を照らすように…目の前に映る巨大なミレニアム・スタジアムは怪しげな光を放つUFOが着陸したかのようだ。そこへ催眠術をかけられたように人々が吸い込まれていく。そう、ボクシングという魔力に…
サッカー、ラグビーの会場でもあるだけにとにかく大きい。自分の持つチケットのゲートを間違えた時のショックは余りにも大きかった。目的のゲートへ行くにはわざわざ街の中心を回らなければならなかったからだ。(トホホ、ホ…スタジアムの中で移動させてくれりゃいいのになぁ。)
この小さな街に溢れている群衆に圧倒された…通りという通り、バーにレストラン、車道にまで。ビールを手に雄叫びあげてる奴らもいれば、怪しげなダフ屋、まがい物っぽいポスター、Tシャツを売ろうとする連中…目的はどうであれ皆がボクシングという狂宴に引き寄せられているようだった。
どうやら「ゲート5」まで辿り着いた。不可解にもこの試合は10時以降は入場できないらしい…そういった入場制限は聞いたことも無い。全く理解に苦しむ。(どういう魂胆なんだろう…謎や)
前日に買ったチケットを手に席へ向かいながら昨日の記憶が甦ってきた。チケットを買いに行った時のことだ。不安の中、£75のチケット一枚下さい、と告げると何やらプリンターが動き始めるような音が…カタカタッ、カタ、ジー、カタカタッ。(えっ、もう発券かよ?おいおい、席選ばせてくれないの?問答無用とはこのことだなぁ、選択の余地なしだよ…トホホ、ホ。あ〜選ばれし席はどの辺りなのかなぁ〜、まだ上かよ。)
スタジアムがデカいだけあってチケットにある表示もやたらに多い。
「LEVEL-4 AISLE-414 BLOCK-M14 ROW-12 SEAT-5」
まるで砂漠のなかに一滴の水を探すようだ。探しあてた席から見渡す光景は壮観だった。(お〜絶景かな、あれに見ゆるがリングか…小せぇ〜)
秋の夜長にはピッタリか、この日は合計11試合。4回戦が5試合、6回戦が3試合、更に8回戦が1試合…12回戦の世界戦が2試合。いくらボクシングが好きといえど多すぎる感がある。いずれ飽きてしまいそうだ…(ん〜もし、全て判定になったらトータル何ラウンドになるんだろう…うへっ、70ラウンドかよ。数えなきゃ良かった…)
期待に反して第一試合から判定が続いた。名前も知らないボクサー達が懸命に闘っていた。明日の栄光を夢見て…自分はウトウトと別の夢を見ていたようだ。
ふと眠りから目を醒ますと場内は大観衆で破裂せんばかりに膨らんでいた。ゆうに5万人は越えそうな勢いだ。
ウェールズはもとよりイギリス各地、加えてデンマークからも来ているのだろう…そう、遠くは日本からも含めて。
セミファイナルはWBO世界クルーザー級タイトルマッチ。王者エンゾ・マカリネリの4度目の防衛戦だ。挑戦者は直前まで二転三転した末に決まったモハメド・アッゾーイ。ゴング直後から「エ〜ンゾォ〜、エ〜ンゾォ〜」のコールに後押しされ4RにKOしてしまった。(な〜んだかなぁ…大したパンチには見えないんだけど。挑戦者の調整不足は否めないのかな)試合内容にはお構いなしで地元ファンは大喜びだ。
深夜3時前…待望の瞬間が到来。
今、古代ローマのコロッセオが現代に出現したような雰囲気が漂う。生死を賭けた剣闘士に群衆が狂喜している…これぞ世界最高峰を争うに相応しい舞台だ。
先ず登場したのはデンマークのWBA・WBC-Sミドル級王者『バイキングウォリアー』ミケル・ケスラー。バイキングの末裔とも言われている。彼の背後には2本のチャンピオンベルトが輝いている。
大観衆という大海原がうねる荒波に乗り出す勇敢さはまさにバイキング魂だ!たった独り敵のど真ん中へ…
続いてWBO-Sミドル級王者『ウェールズの誇り』ジョー・カルザギが登場。彼を語らずしてSミドル級を語ることはできない…保持するタイトルを防衛すること20度!10年もの長きに渡り譲られることのない王座、誰もが認める偉大な王者なのだ。
両者がリングに揃い国歌斉唱。イギリス国歌の時はスタジアム全体が揺れているような錯覚に捉われた…ファンによる大合唱は圧倒的な迫力だ。お互いが国家を背負って臨む緊張感…鳥肌がたつのを感じる。そしてボクシングの虫が全身に蠢めくのだ。世間ではこれをアドレナリン、と呼ぶのかな…
ファンの熱狂を煽るようにリングアナウンサー、マイケル・バッファーの渋い声が響いた。そしてお決まりの
「Let's get ready to rumble 〜 !!」
会場でこれを聞いて心が震えない者はいないだろう。(お〜、きたきたぁ…いつもより気合いが入ってるような気がするなぁ〜。さすがにマイケル・バッファーは堂々としてるよ…)
カルザギを紹介する時には割れんばかりの拍手や声援でアナウンスも掻き消されてしまう有り様だ…まるでカーディフ中のエネルギーが集まってるようだ。
ゴング直前、闘う宿命にあった両雄が対峙した。かたや全勝のケスラー。表情には緊張感が滲んでいる…その端正なマスクにはキズひとつない。右上半身の刺青が異様に目立つ。
一方のカルザギも無敗。幾多の修羅場を踏みキャリアの差は歴然だ…緊張感の中にも揺るぎない自信が窺える。瞳には静かな火花が散っている。(さあ、いよいよだ!ケスラーの右ストレートか、カルザギのパシャパシャのパンチか…このパシャパシャがクセ者なんだよなぁ〜、20回も防衛してるだけあって。いや、ケスラーがあのパシャパシャパンチにやられる訳がない。)
第1Rを告げるゴングが鳴った。
開始早々からスピードあるパンチが交錯する。一瞬々々、目が放せない。(お、カルザギも正攻法で応じてるよ…パシャパシャパンチが陰を潜めてるなぁ。しかし、遠すぎてイマイチ?見えにくいが…そもそも、なんで小さいスクリーンが2枚並んでるんだよぉ、な〜んで大きいのを1枚ドーンと設置しないかなぁ〜)地元カルザギのパンチが繰り出される度に5万の観衆がドヨめく。果たしてどこまで見えてるのかは定かではない…恐らく大多数はスクリーンを見てるのではないだろうか。
第3Rにケスラーがスリップダウン…汗でリングが濡れていたのか、足を滑らせたのだ。(あ〜びびったぁ…スリップで良かった)
第4R、一進一退の攻防が続くなか、ケスラーの強烈な右アッパーが炸裂した!!一瞬カルザギの腰が落ちかけた…その直後に再び右アッパーが命中。(おっ〜、いいアッパーだったけどなぁ…カルザギはタフだよ、とても35歳とは思えないな。あれを喰ったら今までの相手はダウンしただろうに。しかしもう一発喰ったら…)
そこは百戦錬磨のカルザギ。以後、右アッパーへの警戒には怠りがない。
第6Rを終わって互角の接戦だった。が、この辺りからカルザギが本領を発揮…細かいパンチの連打で攪乱しはじめた。横殴り気味のパシャパシャパンチだ…明らかにケスラーは戸惑っている。(出た出た…パシャパシャパンチが。カルザギは真っ向勝負から手数で幻惑する腹積もりだな…この切り替えがベテランの成せる技かなぁ)
後半はカルザギがペースを握ってしまった。自由自在にパンチを放ちケスラーを翻弄している。(な〜んか小手先のパンチで誤魔化されてるような…マズイよ)
迎えた第12R、ほぼ勝利を確信するカルザギには動きからも余裕が感じられる。ケスラー自身も否定しないだろう…もはやKOするしか勝利を掴めないのだ。(あんまり時間ないからケスラーも焦ってるなぁ〜、イケイケッ!そうそう…あ〜、あの右アッパーが当たればなぁ。あ〜時間なさそう…ん〜駄目かぁ)試合終了を告げるゴングが鳴った。カルザギの勝利を信じて疑わないファンは既に興奮の真っ只中…採点結果を待つまでもなかった。
スクリーンに勝者と敗者が映る。肩車され喜びの笑顔を見せるカルザギ。最強を証明し『ウェールズの誇り』は『ウェールズの歴史』となったのだ。リング下ではケスラーがインタビューを受けている。敗れたとは思えない清々しい表情だ。近い将来、必ずやケスラーの時代が到来するだろう…『カルザギに敗れた男』という勲章を背負って。(あ〜残念…地元の利がなくても、カルザギが一枚も二枚も上だったなぁ〜。たかがパシャパシャのパンチ…されどパシャパシャのパンチ、か。さぁ来週は花の都パリだ!!)
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会場のミレニアム・スタジアム |
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バスターミナルに貼られていたポスター |
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深夜3時前の入場シーンに沸く! |
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先に挑戦者ケスラーがリングイン! |
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緊迫した試合に盛り上がるサポーター。 |
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2002年、カルザギ対ヒメネス戦は、なんと、日没のカーディフ城をバックに屋外特設リングで開催された。
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